FILM REVIEW

『異端の鳥』Nabarvené ptáče(2019)-Václav Marhoul

▶︎人間の本質を抉る映画

第76回ヴェネツィア国際映画祭でユニセフ賞を受賞。コンペティション部門で上映された際には、あまりの残酷な描写に途中退場者が続出するなど賛否両論を巻き起こした。しかし最後まで観賞した者からは10分間のスタンディングオベーションを受けたという。

原作はポーランド出身Jerzy Nikodem Kosiński(イェジー・コシンスキ/ジャージ・コジンスキー)の『The Painted Bird (1965)』。彼自身がホロコーストの生き残りであったが、1991年5月3日ニューヨークの自宅で自ら 命を絶つという形で人生を終えた。

ポーランドでは発禁書とされていた原作を元にVáclav Marhoul(ヴァーツラフ・マルホウル)監督が11年もの歳月をかけて映像化を果たした。本作では、舞台となる場所が特定されないよう映画史上初となる人工言語インタースラーヴィクが使用されている。

観たくてたまらなかった作品、ようやく観ることができた。

その息を飲むほどの美しい映像美、そして全くもって対照的な残酷すぎる内容。この作品は途中で何度も目を背けたくなるようなシーンがあるが、それでもやっぱり最後まで観賞し続けて欲しい。なぜならその残酷さは、人間が引き起こした戦争という中で人間の欲望によって生まれ、そしてまたその残酷さが残酷な人間を生み出しているという事実なのだから。

私たちが目を背けたいシーンは、いつ私たちが現実に行ってもおかしくない。何かのきっかけで、人間という生き物はいつだって冷徹で残酷な“邪悪”に陥ちうるのだ。

生きることは小さな欲望という粒の集合。しかしその粒の一つが大きくなりすぎたり、その粒を多く持ちすぎることによって人間は人間というバランスを崩し、欲望に飲み込まれてしまう。そして欲望はいつでも邪悪を孕んでいる。あるいはそれこそが人間の本質であるとも言えるだろう。

吉祥寺オデヲンでは11月19日まで!お見逃しなく!!

▶︎あらすじ

ホロコーストを逃れるため、叔母の家に疎開させられた一人の少年……

▶︎観賞ポイント

point 1|Vladimír Smutný(ウラジミール・スムットニー)が贈る美しい映像美

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『コーリャ 愛のプラハ』などで有名なVladimír Smutný(ウラジミール・スムットニー)による映像美にはただただ目を奪われる。35mmフィルムで撮影されたモノクロームの世界は、コントラストが絶妙で吸い込まれるような無口な美を孕んでいる。風の声、川のせせらぎ、鳥の歌などがその世界に彩を落とす。この映像美があるからこそ、ストーリーの叫びが、観る者の胸に鋭く突き刺さるのだろう。

point 2|ただの少年Petr Kotlar(ペトル・コトラール)

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俳優でもなんでもなく、偶然にマルホウル監督よって見つけられたPetr Kotlar(ペトル・コトラール)。演技でない演技が本当に素晴らしかった。セリフはほとんどなく、苦しみや葛藤が表情で語られている。この役を演じることは彼にとって現実的な苦痛だったのだろうか。

そして主役の彼の脇を固めるのが『悪魔のはらわた』のUdo Kier(ウド・キアー)、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』にも出演したStellan Skarsgaard(ステラン・スカルスガルド)、『タクシードライバー』でジョディ・フォスターの売春斡旋役を務めたHarvey Keitel(ハーヴェイ・カイテル)など豪華俳優陣。ぜひ注目して欲しい。

point 3|優しさと愛という微かな灯火

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この作品の中には愛や優しさが密やかに、しかし確実に存在している。この救いようのない世界に存在する微かな灯火を決して見落とさないで欲しい。ラストもまた然り。

▼作品データ

『異端の鳥』(チェコ/スロバキア/ウクライナ)
原題:Nabarvené ptáče
原作:『The Painted Bird (1965)』Jerzy Nikodem Kosiński
公開:2019年
監督・脚本:Václav Marhoul
撮影:Vladimír Smutný
音楽:PAVEL REJHOLEC

▼観賞データ

TOHOシネマズシャンテ