FILM REVIEW

『哀れなるものたち』Poor Thing(2023)-Yorgos Lanthimos

『哀れなるものたち』

 Yorgos Lanthimos(ヨルゴス・ランティモス)が、前作「女王陛下のお気に入り」でも脚本を担当した衣装、ホリー・ワディントン(トニー・マクナマラ)と再びタッグを組み、Alasdair Gray(アラスター・グレイ)の「Poor Things」にオリジナルの脚色を加えて映画化。

 主人公ベラをEmma Stone(エマ・ストーン)が演じ、その圧巻の演技に多くの人が魅了された。さらに注目すべきは、Holly Waddington(ホリー・ワディントン)の衣装。華やかでありながら、唯一無二の個性を放つその美しさが、作品をさらにひとつ上の芸術作品へと押し上げている。

Trailer

作品短評

 大好きなランティモスの最新作。奇怪で可笑しく幻想的で美しい世界観は、またしてもわたしを惹きつけてやまないものだった。外の世界を知らない無垢で残酷で好奇心旺盛な子どものベラが、モノクロームの世界から無限の色彩溢れる世界へ。

エッグタルト、熱烈ジャンプ!
抑制や欲求の解放を経て猛スピードで進化する。

 たったひとつの肉体でベラの幼児期から社会人になるまでを演じ切ったエマ・ストーンは、見事としか言いようがない。紛れもなくベラはストーンで、ストーンはベラであった。

 魚眼や広角、ピンホールショットといったユニークなカメラワークによって観るものに錯覚を起こさせ、気がつけば目が離せなくなっている。美意識が細部にまで行き渡った壮大な美術セット、さらにホリー・ワディントンの衣装も圧巻。デザインはもちろん、素材やカラーなどのディティールへの拘りにも注目すべきだ。

男性優位社会、フェミニズム、リプロダクティブ・ライツ。貧困、倫理観、社会主義、独裁。これはベラの人生讃歌であり、女性の歴史であり、創造の物語。

結局のところ哀れなるものとは、わたしたち人間そのものなのだ。

作品情報

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『哀れなるものたち』
全国公開中
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフほか
原作:『哀れなるものたち』(早川書房刊)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2023年/イギリス/原題:PoorThings
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.