FILM REVIEW

『ぼくらのよあけ』(2022)-Tomoyuki Kurokawa

劇場アニメ『ぼくらのよあけ』

 2011年3月より月刊アフタヌーン(講談社)に連載された今井哲也によるSF漫画「ぼくらのよあけ」が、劇場アニメ『ぼくらのよあけ』となって2022年10月21日より全国公開された。監督を黒川智之、脚本を佐藤大、アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督を吉田隆彦が務め、アニメーション制作はゼロシーが担当。CVは、主人公である阿佐ヶ谷団地に住む宇宙好きの小学4年生、沢渡悠真を杉咲 花、悠真の家にいる人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコを悠木 碧が務める。さらに悠真の友達である岸 真悟を藤原夏海が、田所銀之介を岡本信彦が担当。ほかにも水瀬いのり、花澤香菜、細谷佳正、津田健次郎などの豪華声優陣が脇を固めている。

 そんな『ぼくらのよあけ』をひと足先に鑑賞したレビューをネタバレなしで紹介。

あらすじ

 2049年夏。“SHⅢ・アールヴィル彗星”の接近に心を躍らせる小学4年生の沢渡悠真は、父と母と人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコと阿佐ヶ谷団地で暮らしていた。ある日、ナナコが何者かにハッキングされてしまう。それは「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来た未知の存在で、2022年から阿佐ヶ谷団地の1棟に擬態し休眠していたという。そして悠真たちに「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」と言った……。

作品評論

見ているだけで呑み込まれるような美しい背景

 アニメーション作品で鑑賞者をもっとも夢中にさせるものは、なんといっても作画。本作において、愛らしいキャラクターが暮らす世界は実に美しい。まずハッとさせられたのが、その光の美しさ。子どもたちの夏休みが舞台ということで、太陽の光、星空、木々の間から覗く木漏れ日、といったワクワクする毎日を彩るさまざまな“光”がキラキラと輝き、それぞれが胸にしまっているあの時の思い出を甦らせる。空、水、雲、どれをとってもそこから夏の匂いがするようだった。

コンセプトデザイン(みっちぇ作)/コンセプトアート(pomodorosa作)

 「誰も見たことがない」虹の根のデザインはイラストレーターのみっちぇさん、そしてアニメーションキャラクター原案とコンセプトデザインは、イラストレーター・音楽作家として活躍するpomodorosaさんが務めている。それによって単なるアニメーション作品としてだけでなく、アート作品としてもわたしたちの目を楽しませてくれる。これが唯一無二の独創的な美を生み出しており、この作品をワンランクアップさせていることは間違えない。SFや宇宙といったターゲットを絞ってしまいがちな作品も、このアート力のおかげでより多くの人々の心を掴むだろう。

やや難解かつ爽やかなジュブナイルストーリー

 アニメーション・主人公が小学4年生、だからといってこの作品が小学生向けであるかと問われると、少しその回答に迷ってしまう。なぜならこの主人公は「宇宙オタク」であり、また科学が発達した世界が舞台となっているからだ。何光年とか、ハッキングとか、アップデートとか、考えてみればそれほど難しい知識はいらないにしろ、鑑賞中に一度つまづいてしまうと取り残されてしまう可能性がある。裏を返せば、宇宙が好きな子どもや科学が好きな子どもであれば難なくストーリーに没入できるだろう。「子どもから大人まで楽しめる」というよりは、「宇宙や科学好きの子どもや、中学生から大人まで楽しめる」といったところが妥当ではあるかもしれない。

 ジュブナイル作品としてはわかりやすく爽やかにまとめ上げられている。欲をいえば「夏に観たかった」くらいで、大人なわたしとしては「あの頃」の漠然としたワクワク感を思い出させてもらえてとても楽しかった。中高生の青春とも違う、純粋で汚れのない真っ直ぐなあの頃。あのときの小さな自分よりずっとずっとしっかりもので勇気のあるキャラクターが、とても眩しくて羨ましかった。

豪華キャストの演技は必見

 アニメーション作品の醍醐味として、声優の演技力というのも譲ることができない。この作品においては、アニメ好きなら誰しもが「安心してください」と口を揃えるであろう豪華キャストだ。杉咲花さんは声優としては『思い出のマーニー』や『メアリと魔女の花』、『サイダーのように言葉が湧き上がる』に出演しており、さらに女優としての演技力からもその実力は然りといえる。ただ本作においては男の子を演じるということでやや不安があったものの、その心配の無用さには鑑賞後すぐに気付かされた。小学4年生の男の子って、あんな感じだよ。

 オートロボット・ナナコの演じた悠木 碧さん。これもかわいかったな。今のAlexaやsiriよりもっと人間との距離が近くて、でもやっぱりロボットで、次世代のロボットってこんな感じなのだろうと勝手に納得させられた。そして悠真の仲間や家族たちも、水瀬いのりさん、岡本信彦さん、花澤香菜さん、ツダケンさん(津田健次郎)など、それはもう完璧なキャストといえるだろう。

三浦大知による主題歌「いつしか」

 かなり高評価なのが、三浦大知さんのこの主題歌「いつしか」。わたしも「はい」その通りに感情をグワっと掴まれましたよ。透き通るような三浦大知さんの声が、宇宙という神秘に沁みわたる。鑑賞後、もう一度歌詞を見ながら聞き返したほど。映画音楽の役割を十二分に担ってくれている素晴らしい主題歌だったといい切れる。

作品情報

2022年10月21日(金)公開

【CAST】
杉咲 花(沢渡悠真役)
悠木 碧(ナナコ役)
藤原夏海(岸 真悟役)
岡本信彦(田所銀之介役)
水瀬いのり(河合花香役)
戸松 遥(岸 わこ役)
花澤香菜(沢渡はるか役)
細谷佳正(沢渡 遼役)
津田健次郎(河合義達役)
朴 璐美(二月の黎明号役)
ほか

【STAFF】
原作:今井哲也「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
監督:黒川智之
脚本:佐藤 大
アニメーションキャラクター原案・コンセプトデザイン:pomodorosa
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:吉田隆彦
虹の根デザイン:みっちぇ
音楽:横山 克
アニメーション制作:ゼロジー
配給:ギャガ/エイベックス・ピクチャーズ
製作:2022「ぼくらのよあけ」製作委員会
ほか

【作品・ムビチケ情報】
アニメ公式サイト:http://bokuranoyoake.com/
アニメ公式Twitter:@bokura_no_yoake(https://twitter.com/bokura_no_yoake)

(c)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会