世界は「言葉」で満ちている
映画boardに投稿させていただきました。
▶︎【ザ・夏にぴったりの青春アニメ映画】“言葉”と音楽が彩る『サイダーのように言葉が湧き上がる』
※映画boardクローズのため、記事内容を掲載しています
イシグロキョウヘイが監督を務めるフライングドッグ10周年記念作品、『サイダーのように言葉が湧き上がる』。市川染五郎、杉咲花をはじめ、声優界のレジェンド山寺宏一、さらに花江夏樹や諸星すみれなど人気声優が集結!7月22日(木・祝)全国ロードショーを前に、ネタバレなしでみどころをご紹介させていただきます。
『サイダーのように言葉が湧き上がる』
アニメ音楽レーベル「フライングドッグ」の設立10周年記念作品として制作された、劇場オリジナルアニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』。2021年7月22日(木・祝)に全国ロードショーが予定されている。
『四月は君の嘘』(2014-2015)や『クジラの子らは砂上に歌う』(2017)のイシグロキョウヘイ監督が、言葉×音楽をキーワードに、現代の人と人との繋がりをイロトリドリのアニメーションで描く。劇中歌には大貫妙子の「YAMAZAKURA」が登場し、ポップな世界感の中にレトロで懐かしい心地いい香りを残している。
主人公の俳句少年・チェリー役を、今回が声優としも映画出演としても主演としても初挑戦となる歌舞伎界の新星・八代目市川染五郎が務める。そして現役JK人気配信主・スマイル役を、『湯を沸かすほど熱い愛』(2016)、『青くて痛くて脆い』(2020)などでその演技力の高さが注目されている女優・杉咲花が演じる。他にも本作でキーとなる登場人物、フジヤマを『それいけ!アンパンマン』のチーズや多くのディズニー作品への出演、さらに数々の輝かしい受賞歴のある山寺宏一が担当。またチェリーの友人であるジャパンは、『東京喰種トーキョーグール』(2014-2018)の主人公・金木研 / 佐々木琲世、『鬼滅の刃』(2019-2021)の主人公・竈門炭治郎を務めるなど人気絶頂の花江夏樹が担当する。他にも、超がつくほど豪華な声優人には大注目だ。
あらすじ
俳句が趣味である17歳の少年・チェリーは、誰かに話しかけられないようにいつもヘッドホンを着用していた。一方、現役JKである人気動画配信主のスマイルは矯正中の大きな前歯を人に見られるのが恥ずかしく、いつもマスクをしていた。
ある日そんな二人がそれぞれ訪れた、地元のショッピングモールで出会うこととなる……。
映画評論
ワクワクさせてくれるポップな色彩アニメーション!
予告編から目を引くのが、金平糖のようにイロトリドリのポップな色彩。多くの色が使われているにも関わらず、全くうるさく感じることもなく、むしろお菓子の国に迷い込んだようなワクワク感を胸の奥に呼び起こす。遠近感によるぼけもほとんどなく、小さな田舎町に広がる雄大な山々の端までくっきりと描かれている。
中でも私が特にお気に入りだったのは、作中にたくさん登場する部屋だ。チェリーがアルバイトをしている福祉施設「陽だまり」やチェリー自身の部屋、スマイルが姉妹で過ごす部屋、さらにフジヤマのレコード店。それらがこの独特の色遣いのまま細部にわたり描き込まれており、影や物の劣化までもが見事に表現されている。
また鑑賞中に探してみて欲しいのが、★(星)。壁紙や街灯、花火などさまざまなところに登場する星が可愛い!!ぜひチェックしてみて。
眩しいほどど真ん中の青春ストーリー
SNSの「いいね」ボタンや配信動画など、現代の若者のごく当たり前の日常の“生き方”に加え、田舎の景色やお年寄りとのふれあい、俳句・レコードといったアナログなものも多数登場する。この新しさと懐かしさの交差が絶妙。そこへ大貫妙子さんの歌声が優しい風のように溶け込む。今を否定するわけでも、昔を否定するわけでもない。今がいいとも、昔がよかったともいわない。そこがまたいいのだ。時代を限定する事もなく、観る人の年齢を選ぶことのない、ど真ん中の青春ラブストーリーは誰にとっても清々しい。
それに加えて声優陣が本当に最高だ。超豪華声優陣の声に、終始耳は喜びっぱなしなのだ。中でも驚いたのはスマイルを演じた杉咲花さん。演者として元々大好きな方であるのだが、瑞々しく透き通るような声が本当にスマイルにぴったり。可愛いな、かっこいいな、美しいな、優しいな……。この声の共演があってこそのストーリー。嗚呼青春。
繊細に描かれた思春期の心の動き
青春、それは輝かしいことばかりではない。苦い思いや恥ずかしことも含めて青春なのだ。作中ではチェリーもスマイルもそれぞれの悩みを抱えている。他人から見れば大したことではなくとも、当の本人にとっては世界の終わりであるかのように重大な悩み。それはまさしく思春期に自らを苦しめる壁。たった一人、他の誰かには見えない。自分の前にだけ立ちはだかるその大きな壁に、イラつき苦しみ、恥ずかしさを覚え、本当の自分を見失ってしまうことも。しかし二人は、人との繋がりによって少しずつ変化していく。二人の心の繊細な動きにもぜひ注目してほしい。
世界は「言葉」で満ちている
この作品で私が最も心を動かされたのが「言葉」である。作中には、文字の芸術である俳句の「言葉」、そして思いを伝えるために口に出す「言葉」が描かれている。
私は文字の「言葉」が大好きだ。言葉が持つ奥ゆかしい意味も、日本語の美しいビジュアル(デザイン)も愛している。だからライターやエディター、校正の仕事をしているし、私だけの「言葉」によって大好きな映画の魅力を伝えることができるほど幸せなことはないと思っている。一方、口に出す「言葉」は大がつくほど苦手だ。小さい頃は学芸会のお姫さま役に立候補し、立派に演じることもできた(と記憶している)。それに学級代表になってクラスを引っ張る事もできた(と記憶している)。しかしいつしか自分のことをうまく話すことができなくなってしまった。たいていのところ本心の20%伝わればいい方で、家族であってもせいぜい40%ほどであろう。頭の中では饒舌に意見を述べ、反論もする。自分の想いをはっきりと持ち合わせているくせに、どうも口に出せない。また、変に口に出して相手を不快にさせてしまうことも。言ってしまえばコミュ障なのだ。
この物語の主人公であるチェリーもコミュ障。だから彼の気持ちが痛いほどよくわかった。
コミュ障が「言葉」を口に出す時の恐怖心、コミュ障が「言葉」を口に出せないもどかしさ、コミュ障が「言葉」を文字にしたときの安心感、コミュ障が文字の「言葉」で共感を得たときの幸福感。同じ言葉であっても、これほどまでに心に与える影響は対極している。しかしチェリーはその恐怖心を乗り越えるのであった。その姿はコミュ障の私の心をぶち抜き、涙腺を崩壊させた。
さらに視覚的にも、ポップなアニメーションに登場する文字の「言葉」はとても印象的であった。チェリーの友人のビーバーが書いたタギング、福祉施設「陽だまり」に掲示された書道、ショッピングモールのポスターや注意書き、小さな田舎街の看板など、文字が溢れる世界観。実は日常でもよく目にする光景のはずなのに、気に留めずにいた自分にも気付かされた。二次元でなくても、世界は文字の「言葉」と口に出す「言葉」で満ち満ちている。
文字の「言葉」も口に出す「言葉」も、どちらも同じ言葉。けれど時としてそのどちらかでなければ伝えられないことがある。「言葉」って難しい、けれどやっぱり「言葉」は魅力的なのだ。
作品情報
『サイダーのように言葉が湧き上がる』
7月22日(木・祝)全国ロードショー
原作:フライングドッグ
監督・脚本・演出:イシグロキョウヘイ
脚本:佐藤 大
キャスト:市川染五郎、杉咲花/潘 めぐみ、花江夏樹、梅原裕一郎、中島愛、諸星すみれ/ 神谷浩史、坂本真綾/山寺宏一
キャラクターデザイン・総作 画監督:愛敬由紀子
音楽:牛尾憲輔
演出:山城智恵
作画監督:金田尚美、エロール・セドリック、小澤 郁、渡部由紀子、辻 智子、洪 熙昌、小磯由佳、吉田 南
原画:森川聡子
プロップデザイン:小磯由佳、愛敬由紀子
色彩設計:大塚眞純
美術設定・レイアウト監修:木村雅広
美術監督:中村千恵子
3DCG 監督:塚本倫基
撮影監督:棚田耕平、関谷能弘
音響監督:明田川 仁
アニメーションプロデューサー:小川拓也
劇中歌:「YAMAZAKURA」大貫妙子
主題歌:「サイダーのように言葉が湧き上がる」never young beach
アニメーション制作:シグナル・エムディ×サブリメイション
製作:『サイダーのように言葉が湧き上がる』製作 委員会
配給:松竹
公式 HP:cider-kotoba.jp
公式 Twitter:@CiderKotoba
©2020 フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上 がる製作委員会