『朽ちないサクラ』
原作となっているのは「孤狼の血」や「佐方貞人」シリーズなどで知られる柚月裕子の「朽ちないサクラ」。続編の「月下のサクラ」とあわせたサクラシリーズの累計発行部数27万部。そんな人気作のメガホンを取ったのは『帰ってきた あぶない刑事』の原廣利。主人公には杉咲花を迎え、さらに萩原利久や豊原功補、安田顕といった演技派揃いの俳優陣が脇を固めた。
複数の事件とそれぞれの正義が絡みあう、見応えたっぷりの警察×サスペンス×ミステリー作品に仕上げられている。
あらすじ
愛知県平井市在住の女子大生がストーカーに殺害されるという事件が起きた。犯人として神社の長男が逮捕されるが、警察が女子大生からの被害届の受理を先伸ばしにし、その間慰安旅行へいっていたことが地元新聞のスクープによって明らかになる。県警広報広聴課の森口泉は、自分が慰安旅行のことを話した親友の新聞記者・津村千佳が記事にしたのではないかと疑いはじめる──。
作品評論
複数の事件が絡みあい見応えのあるストーリー
本作では女子大生のストーカー殺人事件、警察の不祥事、新聞記者の死、宗教団体などの複数の事件が絡みあっている。主人公の森口泉とともにひとつひとつの事件を追っていく感覚は謎解きゲームさながらで、次から次へとおこる展開にぐいぐいと引き込まれる。テンポ感も非常によく、あっという間の2時間。そしてラストには、見事な伏線回収によりカタルシスを得られるだろう。
さすがの柚月裕子原作、そして終始続いている緊張感を見事に描いた原廣利監督。間違いなく面白い、そしてそれを裏切ることない見応えあるストーリーとなっている。
登場人物の心奥に隠された叫びを浮かび上がらせるようなカメラワークと音楽
冒頭からカメラは終始、この物語の不穏さを捉えている。強めのコントラストに彩度がやや引かれた色味、ゆっくりと舐めるように動くズームやパン、さらにスローモーション、手持ちといったカメラワークが、登場人物の心奥に隠された叫びを浮かび上がらせるようだった。とにかく、カメラが気持ちよく走る、そしてひとつひとつの構図が美しく印象的だった。さらに音楽もまた素晴らしい。映像と音楽の対位が見事に活かされて、作品の質をグッとあげている。
まるで北欧の上質なミステリーのように洗練されており、演技だけでなくイメージと音楽が語る心理描写によって、より深い没入感が得られた。
若手俳優とベテラン俳優による実力派演技の化学反応
俳優陣の演技についてはもはや言うまでもない顔ぶれだ。『湯を沸かすほどの熱い愛』をはじめ、『市子』や『52ヘルツのクジラたち』など、その演技力の高さが評価され、映画だけでなくドラマにも引っ張りだこの杉咲花。本作では、彼女の持ち味のひとつでもある爆発的な演技はやや抑えつつ、事件をとおして冷静で太い芯の通った強い人間へと成長していく女性を演じている。ラストには、演技合戦、さらにドキュメンタリーを思わせるリアルな表現力に圧倒させられる。これらの演技に、さらに一段階あがった役者・杉咲花への今後の期待がますます高まるのであった。
豊原功補、安田顕のベテラン俳優の安心感、これはこの作品になくてはならないポイントだ。杉咲花演じる森口泉は「事務職のお嬢ちゃん」。そんな彼女を支えるのが、豊原功補が演じる県警捜査一課の刑事、梶山浩介と安田顕が演じる泉の上司で元公安の富樫俊幸だ。このふたりの存在感が作品全体に重厚さを持たせる重要な役割となっている。
さらに杉咲花と『十二人の死にたい子どもたち』でも共演した萩原利久は、泉へ好意を寄せる警察署の署員、磯川俊一役に。終始どんよりとした空気の中、泉をサポートする健気な姿が程よいアクセントとなっている。
若手、ベテランのバランスの良い配役によって、素晴らしい化学反応を起こし非常にまとまりのある作品へと仕上げられている。
それぞれの「正義」
そして本作のストーリーのポイントはそれぞれの「正義」。警察、公安、友情、愛情……。それぞれが誰かを想って必死になって動いている。しかしそれによって生まれてしまう歪みや不条理。社会の仕組み自体に疑問を持ってしまうことになるかもしれない。
「サクラ」の意味は?その答えに注目。ラストの見事な伏線回収には思わず拍手をしそうになった。鑑賞後、タイトルやポスターをあらためてみると、鳥肌がたつ。
作品情報
映画『朽ちないサクラ』
公開日:2024年6月21日(金)
監督:原廣利
脚本:我人祥太、山田能龍
原作:柚月裕子『朽ちないサクラ』(徳間文庫)
出演:杉咲花、萩原利久、森⽥想、坂東⺒之助、駿河太郎、遠藤雄弥、和⽥聰宏、藤⽥朋⼦、豊原功補、安田顕
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会