FILM REVIEW

『青い、森』Blue Forest(2020)-Soh Ideuchi/Takuya Uchiyama

▶︎幻想的な世界の余白をあなたの想像力で埋めることができる映画

第2回未完成映画予告編大賞で平川雄一朗賞とMI-CAN男優賞(野川雄大)を受賞し、2018年に「星降る町の映画祭with CINEMA CARAVAN」で一夜限りショートバージョンが上映。

Soh Ideuchi(井手内 創)監督と11月27日に公開したばかりの『佐々木、イン、マイマイン』のTakuya Uchiyama(内山 拓也)監督の共同製作となる。エンディングテーマは本作に共鳴し書き下ろした「青い、森、、」原田郁子(クラムボン)が担当。

ポスターの魅力に惹かれ観賞することに。それを見ただけでもわかるように、とにかく映像が幻想的で美しい作品であった。内容は余白が多く、小説を1ページ1ページめくるような感覚があった。それが美しい映像と重なり合い、足元に目を落とすと自分だけの幻想の世界が広がっているような心地になる。

冷たく、痛く、でも温かい。光の差すほうへ……。

主人公の本当の気持ちも、残された人々の本当の気持ちもわからない。けれどそれはリアルな世界ではとても自然なことで、自分の本当の気持ちにだって気づけないことさえある。だから曖昧なままでいいのだ。誰かが誰かを想い、「あいつはどうしているのだろう」「あいつは本当は何を思っていたのだろう」と考えること自体が大切なことなのではないだろうか。

第2回未完成映画予告編大賞の予告編は以下。

▶︎あらすじ

波は幼い頃に両親を亡くし、その後育ててくれた祖父までも失い心を閉ざしてしまった波。しかし志村と長岡と出会い、次第に心を通わせるようになる……。

▶︎観賞ポイント

point 1|どこを切り取っても絵になる美しい映像

画像出典:『青い、森』公式サイト

この作品の最大の魅力とも言えるのはやはり映像の美しさである。特にわたしが好きなのは森と夜。あの無口で神秘的な美しさがたまらなく好きだ。今もわたしの脳裏に焼き付いている。

全体的に少し青味がかった映像で、光と影、また、手持ち撮影のブレもいい具合に没入感を味わわせてくれる。主人公波の仲間と楽しむ時の表情と、その裏にあるどうしようもく孤独な表情、そして高校最後の思い出つくりを楽しむ志村と長岡の表情と、「喪失」を経たその4年後のふたりの表情。音声なしの映像だけで、その人の裏側までぼんやりと見える気がする。

point 2|静かで熱い気鋭の若手俳優陣

画像出典:『青い、森』公式サイト

若手俳優陣の演技もこの作品にぴたりとはまっていた。その佇まいだけで愁いを含んだ波をはっきりと伝えるHiroya Shimizu(清水尋也)。やはりさすがとしか言いようがない。さらに、前半と後半で全く別の顔を見せたShutaro Kadoshita(門下秀太郎)、そして全力が清々しいTaketo Tanaka(田中偉登)。不器用で言葉足らずなところがよりリアルさを演出し、作品に深みが増しているように感じた。

point 3|ラスト

ラストの含ませ方も、この作品が余韻を残し忘れられないものとする要因のひとつ。そしてその手中にわたしたちは導かれるままに身を任せるといい。そしてあなた自身の想像でその空白を埋めて欲しい。

▼作品データ

『青い、森』(日本)
公開:2020年
監督:Soh Ideuchi(井手内 創)/Takuya Uchiyama(内山 拓也)​
脚本:Takuya Uchiyama(内山 拓也)
編集:Soh Ideuchi(井手内 創)
撮影:Takayuki Shida(志田貴之)
音楽:Ikuko Harada(原田郁子:クラムボン)

▼観賞データ

UPLINK吉祥寺

■今後のスケジュール
12/4- 仙台チネ・ラヴィータ
12/11- アップリンク京都

▼優しくて強い歌、King Gnu『The hole』

わたしが観賞した際、内山監督が手掛けたKing Gnuの『The hole』の2本立てだった。

実はわたしはこの2日前にKing Gnu Live Tour 2020 AW “CEREMONY”の日本武道館公演に参戦していた。しかも『The hole』はわたしの大切な曲。武道館で泣いたよ。そしてなんという事か、たまたまアップリンク吉祥寺に映画を観に行くスケジュールを組んでいたのだった。奇跡。

この『The hole(2019)』のMVは以前からファンの間でも「映画のようだ」と話題となっており、約4分50秒に濃縮されたストーリーの考察が盛んに行われていた。これは『青い、森』でも同じで、作品に多くの空白を持たせ、解釈は人それぞれでいいと開放している。もちろん内山監督自身の中には正解を持っているのだろうが、それが皆同じでなくてもいいという事なのだろう。

ぜひこの作品も多くのひとに知ってもらいたい。