FILM REVIEW

『COLD WAR あの歌、2つの心』Zimna wojna(2018)-Pawel Pawlikowski

▶︎視覚と聴覚から極上の芸術に溺れたいあなたにおすすめの映画

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作品の始まりから終わりまで一瞬でさえも目を離したくなかった。これぞ私の愛する映画という世界。

それはまるで一枚の絵画で、それはまるで一枚の写真。それを目にして自然と脳内に流れる美しい旋律。余計なものは一切排除されたミニマムな世界観。静かで激しい、繊細で大胆。目眩がしそうなほど美しかった。

映画はスペイン語で「El séptimo arte」=「7番目の芸術」という。音楽、文学、絵画、建築、彫刻、舞踊・舞台、そして映画。映画は芸術出なく単なるエンターテインメントだという人もいる。しかし私にとってはやはり芸術なのだ。

人間の視覚と聴覚が刺激されることによって胸の奥に熱を帯びる。この作品は、美しく並べられた数列のようにその刺激が完璧に整えられている。だから、視覚と聴覚から極上の芸術に溺れたい方におすすめしたい一本だ。

第71回カンヌ国際映画祭では監督賞を、第31回ヨーロッパ映画賞では作品賞・監督賞・脚本賞・女優賞・編集賞の5部門を受賞している。

▶︎あらすじ

第二次世界大戦終戦後のポーランド、ピアニストのヴィクトルは民族音楽を披露する音楽舞踊団を結成するためオーディションを行った。そこでズーラという一人の若い女性と出会い、二人は恋に落ちる……

▶︎観賞ポイント

point 1|呼吸をしているかのような映像美

画像出典:『COLD WAR あの歌、2つの心』公式サイト

この作品の一番の注目ポイントであり私が最も愛するポイントが、映像の美しさだ。それは単なる「美しい」だけのものではなく、モノクロームの世界の中にその一つ一つのシーンの息づかいをも感じることができる。脚本・演出・編集・演技の全てが完璧に一つとなって呼吸しているようだ。変な言い方かもしれないが、まるで「映画が生きている」ようだった。

こんな作品に今まで出会ったことがない。これを書いている今も、胸の奧が震える感覚を思い出す。私にとって一生消えることのない体験だった。

Pawel Pawlikowski(パヴェウ・パヴリコフスキ)凄すぎる。

point 2|音楽で表現される男と女の心

そしてもう一つ、この作品を語る上で必須であるのはやはり音楽。音楽を愛する二人のラブストーリーなのだから当然のこと。しかし面白いのが、この作品で使用されている心地良い音楽が男と女の心や関係性を表している点である。

愛し合う二人、愛するポーランドを象徴するのが「Dwa Serduszka(2つの心)」。偽りの愛、そしてフランスを象徴するのが「Loin de toi」。

この2曲に注目して、実際に映画を観て確かめて欲しい。

Dwa Serduszka

Loin de toi

point 3|女優 Joanna Kulig(ヨアンナ・クリーク)

ヒロインであるズーラを演じたのはJoanna Kulig(ヨアンナ・クリーク)。ポーランドの女優・歌手だ。演技も歌も本当に素晴らしかった。

ストーリー上は彼女は愛に生きる悪女。男を翻弄し、自分の愛のためなら夫も息子も使い捨て。最悪な女でありながら、同性である私もその妖艶な魅力を感じずにはいられない。自分を決して曲げることのできない欲望に正直な彼女の姿は、本来の純粋な人間そのものようなのだ。その生き様にどこか羨ましささえ覚えてしまうのであった。

▼作品データ

『COLD WAR あの歌、2つの心』(ポーランド・イギリス・フランス)
原題:Zimna wojna
公開:2018年
監督:Pawel Pawlikowski
脚本:Pawel Pawlikowski/Janusz Głowacki
撮影:Łukasz Żal

▼観賞データ

wowow