FILM REVIEW

『佐々木、イン、マイマイン』Sasaki in my mind(2020)Takuya Uchiyama

▶︎俯いてしまった時、大きく深呼吸をして再び前を向かせてくれる映画

東京国際映画祭の時から気になっており、先日ようやく新宿武蔵野館で観賞することが叶った。新宿武蔵野館は、Takuya Uchiyama(内山拓也)監督が20歳の頃から実際に働いていた映画館。本編スタート前には、内山監督と数名のキャストが映し出されメッセージが流れた。それを観ただけで、スタッフの熱量と内山監督を取り巻く多くの人からの彼への愛を感じた。

そんな内山監督は、23歳での初監督作『ヴァニタス』がPFFアワード2016で観客賞を受賞している。そして先日記事にした中編作品『青い、森』ではSoh Ideuchi(井手内 創)監督とタッグを。さらにこれまで、King Gnuの『The hole』や平井堅の『#302』、Uruの『あなたがいることで』などのMVや広告も手掛けている。

そして今回の作品の脚本は、Gaku Hosokawa(細川岳)の書きかけの小説を内山監督と共に映画として作り直したところからはじまったという。細川の旧友「佐々木」を描き、佐々木本人にそれを見せたかったそう。そう聞くと、「佐々木って誰やねん」と思うかもしれないが、不思議とこの作品を観ると誰にでも「佐々木」が存在したり、或いは誰か自身が「佐々木」であることに気づくのだ。

大人になるっていろいろあるよね。うぜーし、面倒だし、イライラする。誰かにもそして自分自身にも。そもそも大人になるってどういうこと?あの頃はよかったのにってどうして思ってしまうんだろう。この作品は、生きている中でさまざまな壁にぶち当たって俯いてしまうそんなわたしたちに、大きく深呼吸をして再び前を向かせてくれる映画である。鑑賞者ひとりひとりが自分の人生を重ね、自分にとっての佐々木に再会し、「あの頃」のように思わず笑いが溢れてしまうだろう。

▶︎あらすじ

27歳の悠二は俳優になるために上京したものの、いつしかその夢も後回しにしただ日々を過ごすだけの生活を送っていた。そんな中地元の同級生であった多田と再会し、高校時代の絶対的存在であった「佐々木」のことを思い起こす……

▶︎観賞ポイント

point 1|自分の青春を重ねながら

画像出典:『佐々木、イン、マイマイン』公式サイト

この作品を観るからには、まずは青春を存分に満喫して欲しい。何をやっても楽しかった、自分のために世界は回っているのではないかと勘違いさえしていたあの頃。或いはそんな青春がなかったならば、つまんない毎日の中であの頃見上げた空の色や、あの頃出会った音楽や本のことを思い起こしてみるのもいい。それもまた青春。そして高校時代の青春はもちろん、現在の青春も。

青春とは心の若さである。信念と希望にあふれ、勇気にみちて日に新たな活動を続けるかぎり、青春は永遠にその人のものである

松下幸之助の座右の銘

point 2|佐々木と悠二

画像出典:『佐々木、イン、マイマイン』公式サイト

佐々木を演じたGaku Hosokawa(細川岳)と石井悠二を演じたKisetsu Fujiwara(藤原季節)。この二人の演技はとてもよかった。

同級生の前ではお調子者でいつも先導を切ってみんなを楽しませている佐々木。悠二のことも励まし応援している。そんな佐々木がふいに見せる孤独な眼差し。そしてそれを見守る悠二。相手のエリアに足を踏み入れすぎず、離れすぎない。この二人の微妙な距離感がなんともリアル。表情や言葉と言葉の間、そして仕草がとても良い。

point 3|悠二とユキ

画像出典:『佐々木、イン、マイマイン』公式サイト

この二人の関係性も含めた距離感もわたしにとってはとても心地が良かった。友達とは違う、恋人とも違う微妙な距離感。そしてこちらもお互いのエリアに足を踏み入れすぎずにいる。

ストーリー前半の、悠二がユキに夢の話を聞くシーンが好きだった。二人の布団、部屋に差し込む太陽の光、悠二の視線、ユキのお話、ヒトの温もりが恋しくなった。

point 4|佐々木の部屋

この作品に一気に引き込まれたのは、冒頭の佐々木の部屋が映った時だった。それを目にした瞬間、黒澤明監督の『生きる』が脳裏をかすめた。そして、本作のポスターのシーン。

行定勲監督の『劇場』(2020)の舞台美術も担当したNaoka Fukushima(福島奈央花)が手掛ける本作の細部にまで作り込まれた美術にもぜひ注目しながら観賞して欲しい。

▼作品データ

『佐々木、イン、マイマイン』(日本)
公開:2020年​
監督:Takuya Uchiyama(内山拓也)
脚本:​Takuya Uchiyama(内山拓也)/Gaku Hosokawa(細川岳)
撮影:Hidetoshi Shinomiya(四宮秀俊)
美術:Naoka Fukushima(福島奈央花)

▼観賞データ

新宿武蔵野館