FILM REVIEW

『羅生門』Rashomon(1950)-Akira Kurosawa

▶︎信じることで盲目になってしまっているあなたにおすすめの映画

芥川龍之介の『藪の中』『羅生門』を原作に、黒澤明監督が「世界のクロサワ」へと一躍有名となった作品。

テーマは人間不信。さらに内容が難解なため、日本国内ではあまり受け入れられなかったのだが、ヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞をアカデミー賞では名誉賞、さらに翌年には美術賞を受賞した。

コロナ禍という未曾有の時代を歩んでいる私たちが、今こそ観るべき作品ではないだろうか。

人間とは何者なのか?私は?あなたは?何者なのか?何を信じて何を疑う?

その答えが見つかるかもしれない。

▶︎あらすじ

平安時代の京都、一体の変死体が発見された。そこで検非違使に呼ばれたのが盗賊・多襄丸、死体の妻、巫女の身体を借りた死体となった侍、そして第一発言者の杣(そま)売り。

それぞれの証言錯綜し、真実がどこにあるのか謎に包まれる……

むせかえる真夏の草いきれの中で繰り展げられる盗賊と美女とその夫の、息詰るような愛慾絵巻!

『羅生門』ポスターより

▶︎観賞ポイント

point 1|モノクロの映像

撮影者のKazuo Miyagawa(宮川一夫)は、この作品をきっかけに黒澤監督と並び「世界のミヤガワ」と呼ばれている。

1950年という時代、今のようなCGはもちろんズームレンズもない時代に彼はこの作品を撮った。それを考えただけで鳥肌が立つ。

白と黒と灰で現わす手作りの世界。

太陽をバックにコントラストの強いシーンでは、太陽に出来る限り近づくため25メートルもの高さのやぐらの上で役者に演じてもらい、下から煽って撮影した。また映画冒頭の雨のシーンでは、雨が激しく降る様が表現できるよう、水に墨を混ぜて降らせたという。更に世界のカメラマンが驚嘆した、藪の中をダイナミックに走り回るシーンでは、実際には同じ場所を走っていた。それをカットの挟み込みや、鏡の光の反射などのさまざまな工夫によって、あのような迫力のあるシーンへと完成させた。

緻密で繊細な手作りのカメラワークが創り出した世界観と、コントラストの美しい映画美を堪能せよ。

point 2|ストーリーの考察を堪能する

この作品は、物語の謎に対する明確な答えが示されないリドル・ストーリーとなっている。そのため、観ている人自身がさまざまな解釈を行うことができる。さらに物語の中では一つの事件に対して関係者が別々に独自に語らせており、嘘やちっぽけな自尊心、傲慢さから人間のエゴイズムの醜さが浮き彫りとなっている。ここに映し出される真の人間の姿をしっかりと心に刻んで欲しい。また、この調査手法はのちに「羅生門式調査手法」と呼ばれるようになっている。

point 3|Machiko Kyo(京マチ子)演じる真砂

役者の中で最も驚かされたのは、真砂役のMachiko Kyo(京マチ子)。昨年、95歳でこの世を去った大女優だ。

1945年に女優としてデビューし、翌年この作品で毎日映画コンクールの女優演技賞を受賞している。彼女が主演をつとめる作品が、次々と海外で受賞したことから「グランプリ女優」と呼ばれた。

黒澤監督は当初、ヒロイン役に原節子を考えていた。しかしこの役をどうしても演じたかった京マチ子は自ら眉毛を剃り、オーディションをものにした。

そんな彼女の演技には言われなくとも注目するだろう。妖艶な女の内に隠された真心とは?

▼作品データ

『羅生門』(日本)
原題:羅生門
原作:『藪の中』『羅生門』Ryunosuke Akutagawa(芥川龍之介)
公開:1950年
監督:Akira Kurosawa(黒澤明)
脚本:Akira Kurosawa(黒澤明)・Shinobu Hashimoto(橋本忍)
撮影:Kazuo Miyagawa(宮川一夫)

▼観賞データ

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