FILM REVIEW

『アンダルシアの犬』Un Chien Andalou(1929)-Luis Buñuel

▶︎内側にいる自分と向き合うことができる映画

今日『詩人の血』を観賞した。(『詩人の血』はまた次の記事で)『アンダルシアの犬』と並び称されるアヴァンギャルド映画とされているが、やはりわたしは『アンダルシアの犬』の方が好きだ。初めて観賞した時には、映画という芸術作品の持つ力を思い知らされた。この作品を観ずして映画は語れないし、わたしの愛する“映画”の源である。

「口頭、記述、その他のあらゆる方法によって、思考の真の動きを表現しようとする純粋な心的オートマティスム。理性による監視をすべて排除し、美的・道徳的なすべての先入見から離れた、思考の書き取り」

wikipedia

フランスの作家André Breton(アンドレ・ブルトン)が上のように定義した芸術活動「シュルレアリスム」。まるで夢の中にいるような現実感、つまり超現実主義の意味だ。現代人が使用する「シュール」はこの略語となっており、超現実的な・難解な・奇抜な・不条理な、また高度な芸術という意味を含んで使用されることもある。

本作はそのシュルレアリスムの傑作ともいわれている実験映画であり、1928年にLuis Buñuel(ルイス・ブニュエル)、そしてSalvador Dalí(サルバドール・ダリ)らによって製作され、1929年に公開された。

作品はブニュエルとダリの夢を元に製作されたイメージ映像が集められたサイレント映画であり、筋の通ったストーリーがない。つまり、正解不正解も善悪もない。その断片的なイメージの集まりを身体に浸透させ、わたしたち観客は自由に感じることが許されている。

わたしは何度もこの作品を観ているのだが、見るたびに新たな発見がある。まず初めて観た時はただ漠然と人間の邪悪さを感じた。しかし2回目には登場人物の滑稽さにコメディ要素を感じ、思わず笑いが溢れてしまった。そして3回目、ストーリーはないとされているこの作品が一つのストーリーに見えてくる。まるで自分の夢のように……。

即ち、観る人の精神状態や体調、観賞時間やタイミングによってこの作品からはさまざまなことを感じ取ることができる。この作品を観賞することによって自分自身に潜む内側の自分と向き合うことができるのだ。だからこの作品を観るのに一番おすすめなのが、迷っている時や自分の考えが纏まらない時。本当の自分をしっかりと内省し、自分の思考を整理し、感性や信念に素直になることができると思う。内側の自分と向き合いたいときにおすすめの映画だ。

▶︎観賞ポイント

point 1|何も考えない、ただ感じる

有名な冒頭。女性の眼球が剃刀で真っ二つに切られるというショッキングなシーンからはじまる。自由に感じればいい。このことは何かを意味しているのか?それとも何も意味していないのか?そんなことはまた明日考えればいい。

point 2|自分だけの観賞スタイルを見つける

画像出典:amazon

わたしがこの作品を観賞するベストタイミングは、夜明けの数分前。淡いピンクとブルーが溶け合う色に染まった空で、白い月が「忘れるなよ」と掠れた声で呟く。世界が沈黙の夢の終わりに差し掛かろうとしているとき、川の水がきらりと光る。透明な闇は確かにそこに存在しているが、もう目で見ることはできない。それがわたしのベスト。

けれどあなたはきっと違うだろう。もしかすると、ハッピーすぎてどうにかなっちゃいそうな夜に観るのがベストなのかもしれない。あるいは、学校に行く前に観るのがベストなのかもしれない。それは人それぞれで、今日のベストは明日のベストではないかもしれない。けれども、それでもこの作品は柔軟に形を変えてわたしたちの感性を刺激してくれる。

お酒を片手に鑑賞するのもいいだろう、キャンドルの灯の中で鑑賞するのもいいだろう。

あなた好みのスタイルで楽しんでほしい。

▼作品データ

『アンダルシアの犬』(フランス)
原題:Un Chien Andalou
公開:1929年
監督:Luis Buñuel
脚本:Luis Buñuel/Salvador Dalí
撮影:Albert Duverger

▼観賞データ

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