FILM REVIEW

『女と男のいる舗道』Vivre sa vie: Film en douze tableaux(1962)-Jean-Luc Godard

▶︎自分を愛せないあなたにおすすめの映画

ゴダール作品の中で最高傑作とも名高い『女と男のいる舗道』。アンナ・カリーナとの結婚後2作目の作品となる。原題は“Vivre sa vie=自分の人生を生きる”、Film en douze tableaux=12のタブローに分かれている。

1962年に開催されたヴェネツィア国際映画祭ではパジネッティ賞と審査員特別賞を受賞している。

今から50年以上も前の作品でありながら、現代を生きる私たち、とりわけ女性の心に響く内容となっている。そしてこの作品の根底にはゴダールのカリーナへの深い愛がある。それは一人の女性にむけた溢れんばかりの愛でありながら、カリーナが演じるナナという悩み踠きながら生きていくわたしたちと同じようで身近に感じることのできる女性をも包み込んでくれる。まるで「きみはそれでいいんだよ」とわたしたちを肯定してくれているかのように。

だからこの作品は自分を愛せないあなたにおすすめしたい。女性のみならず、日々孤独に生きることと戦っているあなたにもぜひ観てもらいたい。決してハッピーな作品ではないが、そのシーン、そのセリフの裏に何が隠されているのかを感じながら観賞すると、よりあなたに寄り添った1本となってくれるだろう。

▶︎あらすじ

女優を目指し自立するためにポールと離婚したナナ・ンフランケンハイム。しかし現実は厳しく、レコード屋で働いていたが家賃を払うこともできなくなるほど生活に困窮していた。そして生きていくために、舗道で声をかけたきた男性とベットを共にし金を受け取る生活をはじめる……

▶︎観賞ポイント

point 1|Anna Karina(アンナ・カリーナ)演じるナナ、あるいはナナの背後に存在するアンナ・カリーナ

画像出典:amazon

この作品の最大の魅力は、先述した通りゴダールの愛である。それはまるで温かい“生モノの愛”のよう。勿論ゴダールが直接的にそれを表現している訳ではないのだか、作品がはじまったその瞬間からそれは器から溢れ、とめどなく零れ落ちている。オープニングのタイトルインのナナ=カリーナのアップショット。左→正面→右と彼女の顔をを3方向から映し出す。モノクロ独特の冷たさ中に、彼女が時折噛み締める唇や瞬きなど“生モノ”の息づかいを見てとることができる。それを観た時点で、この作品は彼女のための作品なのだと確信を持つ。そして本編がはじまるとさまざまなカリーナの映し出し方に魅了される。彼女は360°どこの角度からでもナナでありアンナ・カリーナなのだ。

まず最初の1タブローの冒頭。物語は彼女の背中からはじまる。しかしよく注目するとその表情が鏡にぼんやりと映し出されている。ある女のその時に至るまでが上手くあらわされていて面白い。

そして最も有名なシーンが、ナナが映画館で『裁かるゝジャンヌ』-Carl Theodor Dreyer(カール・テオドール・ドライヤー)を観て涙を溢すシーン。無音、そしてホワイトをバックに文字。「救いは?」「死」。

個人的にはその前の、映画館の真っ二つに切り取った断面のワイドアングルの固定も好きだ。また、警察での窓を背にした取り調べのカットも美しくそして儚い。彼女の切り取り方、そしてそのように映し出される、一人であり二人でもある、女性の姿とそこにある感情にはぜひ注目を。

point 2|ナナ、そしてカリーナの生き様をあらわす言葉

画像出典:amazon

印象的な言葉がある。

私は全てに責任があると思う

自由だから
手を上げるのも私の責任
右を向くのも私の責任
不幸になるのも私の責任
タバコを吸うのも私の責任
目をつぶるのも私の責任

責任を忘れるのも私の責任
逃げたいのもそうだと思う

全てが素敵なのよ
素敵だと思えばいいのよ
あるがままに思えばいいのよ
顔は顔

お皿はお皿
人間は人間
人生は人生

これは単なるセリフではなく、もしかするとゴダールからカリーナへの贈りものなのかもしれない。ナナというキャラクターを通して、「それでいいんだ」と、そしてエールの意も込めて。

自分の人生は自分のもの。他の誰のものでもない。誰かのために生きるものでも、誰かの言う通りに生きるものでもない。自分の生きる道は自分で選ぶものなのだ。だから自分を愛そう。誰かに愛されなくったって、自分だけは自分を愛そう。

point 3|Michel Legrand(ミシェル・ルグラン)の滲みわたる音楽

1950年代から映画音楽の世界で活躍しているMichel Legrand(ミシェル・ルグラン)。『華麗なる賭け』の主題歌『風のささやき』ではアカデミー歌曲賞を受賞、その数はテレビを含め200を越えるという。そしてその中には日本の『ベルサイユのバラ』や『火の鳥』(作詞:谷川俊太郎)もある。フランスのみならず、世界の映画音楽界においてその名を深く刻んだ巨匠だ。

そんな偉大なるミシェル・ルグランが手掛けた音楽にも注目。

▼作品データ

『女と男のいる舗道』(フランス)
原題:Vivre sa vie: Film en douze
公開:1962年
監督・脚本:Jean-Luc Godard
撮影:Raoul Coutard
音楽:Michel Legrand

▼観賞データ

・DVD