FILM REVIEW

『第三夫人と髪飾り』The Third Wife(2018)-Ash Mayfair

▶︎性別“女”が割り当てられたあなたにおすすめの映画

2014年に本作脚本がスパイク・リー(Spike Lee) プロダクション ファンドを受賞。世界で51の映画祭で上映され、第43回トロント国際映画祭NETPAC賞の受賞など高い評価を受けたが、本作監督Ash Mayfair(アッシュ・メイフェア)の出身ベトナムでは公開4日後に上映中止となった。

その理由は、この作品がベトナムの歴史のリアルだったからではないだろうか。それを晒したくない政府がシーンのカットを(実際にはどのようなシーンかは不明)要請したが、メイフェア監督はその要請に応じず上映中止となってしまった。

わたしがこの作品を観ようと思ったきっかけはもう忘れてしまったが、前述の情報もないまま観賞した。冒頭からグッと引き込まれ、最終的にはわたしの「好きな映画」の一つになった。

観賞ポイントは後ほど記述するとして、この作品は世界中で闘う“女”という性別の方に観て欲しい作品だ。つまり身体の構造だけで「女」という性別が与えられた人。そもそも「女」という括り自体に少し気持ち悪さも感じる現代に、敢えて性別「女」の方に向けて観て欲しいと思う。

この作品に描かれている悲劇は「昔は大変だったね」と単純に片付けてはならない問題であり、これから女性がどのように生き抜いていくべきであるのかを個々に問いかけている。女性であるがために当たり前に歩んできた過去、そして今。その先の未来はもしかすると女性のひとりひとりが選択することができるかもしれない。

▶︎あらすじ

19世紀の北ベトナム、絹の里である土地に14歳の少女メイが嫁いできた。そこには第一夫人であるハと第二夫人のスアンがすでに生活を共にしていた……

▶︎観賞ポイント

point 1|息を飲むほど美しいベトナムの風景

画像出典:amazon

ストーリーの冒頭からとにかく美しい風景に目を奪われる。木、土、川、そしていきものたち。風の音、水の音、虫の声、草を踏む音。ボケを活かした映像がそれらをより引き立てている。

少なくともわたしが知る、観光地のベトナムとはかけ離れたベトナム。こんな美しい土地で、人は野生的に暮らしている。そして一族の仕事である養蚕で蚕が成長していく様が人間の妊娠している姿のメタファーとなって描かれていることも、奇妙でありながら深く印象付けるものであった。

point 2|細部にまで拘りが詰まった美術技術

Trần Nữ Yên Khê(トラン・ヌー・イエン・ケー)の夫であり、『ノルウェイの森』(2010)の監督、Trần Anh Hùng(トラン・アン・ユン)が美術アドバイザーを務めた。彼を中心に創り上げられた世界は、まさに桃源郷のように美しく、それは残酷なシーンにまで徹底されている。その対比効果によって、残酷さがより際立つこととなる。

point 3|Nguyễn Phương Trà My(グエン・フオン・チャー・ミー)の目力

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敢えて性別「女」の方に観て欲しいこの作品、身体の基本的な構造がよく似ている「女」同士が支え合っている姿も描かれている。それは人間の道徳心や良心からの行動ではなく、機械的にあるいは本能的な行動のように思える。

さらにそれだけでなく、性別「男」の苦悩も。本来動物であるヒトが、野生から所謂人間へと変化していく様をありありと見せつけてられたようであった。

▼作品データ

『第三夫人と髪飾り』(ベトナム)
原題:The Third Wife
公開:2018年
監督・脚本:Ash Mayfair
撮影:Chananun Chotrungroj
美術:Trần Anh Hùng

▼観賞データ

wowow