FILM REVIEW

『JUNK HEAD』(2021)-Takahide Hori

少年のような探究心と情熱が生み出した“すごいもの”

2009年からストップモーションアニメの自主製作として短編『JUNK HEAD』の制作が開始され、2017年に長編『JUNK HEAD』が完成。クリエイター・堀貴秀が一人で独学で制作し7年もの歳月をかけてのようやくの完成であった。総コマ数はなんと14万!フィギュアを含め、セットも全て手作りという狂気的な愛が注ぎ込まれた作品に中毒者が続出。ファンタジア国際映画祭では最優秀長編アニメーション賞を受賞するなど海外で高い評価を得て、2021年、ようやく日本に逆輸入された。

鑑賞後「なんか、すごかった……わたし今、すごいものを観たかもしれない」と唖然となった。

▶︎あらすじ

環境汚染によって地上に住めなくなった人類は、地下開発に乗り出した。しかしその労働力として創られた人工生命体マリガンが、自我に目覚め、反乱を起こし、地下を乗っ取ってしまった。それから1600年が過ぎ、永遠に近い命を手に入れた人類はその代償として生殖能力を失う。そんな中新種のウイルス猛威を奮い、30%もの人類の命が奪われてしまう……

▶︎作品批評

画像出典:『JUNK HEAD』公式サイト

大々的に宣伝されていた制作背景が気になりながらも、「未来は、《ガラクタ》に託された。」という全くもってそそられることないコピーに、しばらく観賞することを後回しにしていた。しかし周囲の大絶賛と仕事上の話題になったことで、人差し指一本で背中を押され急いで映画館へ向かった。

今からわたしが観る作品はストップモーションアニメであるということをしつこく頭に入れ、忘れないようにと観賞し始めたが、エンドロールが流れるまで一度もそれを思い起こすことができなかった。ストップモーションアニメであるという事実、しかもそれを(Takahide Hori)堀貴秀という日本人が独学でたった一人で創り上げたという事実、そんな重大なことも忘れてしまうほど内容が素晴らしかったということだ。

画像出典:『JUNK HEAD』公式サイト

グロテスクな見た目と意味不明な言語にそそられる好奇心。滑らかすぎないキャラクターの動きによって感じられる温かさ、そして6分の1スケールだからこそ感じることのできる、奥行きのある繊細な世界観。さらに音楽もシュールでキャッチー作品に仕上げるための効果的なスパイとなっている。テクノサウンドと心地よい四つ打ちもまた、人々の中毒性を唆る。特にエンディングソング、「人類繁盛」は、ふとした時に口ずさんでしまうほど耳に残っている。子どもの声で愛らしく歌われているその歌詞について、「ポッコリとペッコリがビンビンパンパンという非常に下ネタ歌詞です」と堀監督が言っていたそう。(下にリンクあり)

画像出典:『JUNK HEAD』公式サイト

とにかくこの作品には、思春期前の少年、少女が大好物のエッセンスがぎっしり詰まっていて、これを観た大人たちを童心にかえらせてくれるのだ。まず人類の未来を託されたガラクタ。ちっぽけな者にドデカいミッションが課せられるという設定は、老若男女問わずどんな人が観てもわくわくさせられる。次にほんのり香る恋の予感。ガチガチの恋愛でないところがまた良い塩梅だ。散りばめられた下ネタは、少年或いは少女の好きなやつだ。

画像出典:『JUNK HEAD』公式サイト

そして見た目からは想像もできない、ここぞという時にしびれるほどカッコ良いギャップ萌えキャラクターと友情。 

こうやって列挙すると、やはり完璧。堀監督が少年のような探究心と少年のような情熱で創り上げた作品であるからこその、賜物なのだ。

人間というのはいくら歳を重ねても、心の奥底にあの頃の眩しいほどに純粋で希望に満ちた光を忘れずにいるものなのだと改めて教わった気がする。この作品を純粋に楽しむことができる大人は、きっとまだまだ人生捨てたものではないのだろう。

あまりに続きが気になるラスト。元々3部作構想であるらしく、続編の製作も進んでいるとのこと。たったひとりの日本人の呆れるほどの狂気的な情熱から生まれたこの「すごい作品」は、絶対に今観ておくべき作品だ。

▼作品情報

『JUNK HEAD』(日本)
公開:2021年
監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽:Takahide Hori

▼鑑賞データ

TOHOシネマズ日比谷