『Grand Bouquet』(2019)-Nao Yoshigai

細胞で感じる映画
触覚研究者であり、NTTコミュニケーション科学基礎研究所に勤務している渡邊淳司氏からの触覚映画製作の依頼を受け、Nao Yoshigai(吉開菜央)が監督を務めることとなった。完成した作品は一部黒塗りされICC(NTTインターコミュニケーション・センター)で展示され、吉開が抗議文を発表する事態となった。その後、完全版が2019年のカンヌ国際映画祭・監督週間に正式御招待された。
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この作品を知ってからずっとずっと観たいと思っていた。そして、ようやく先週その願いが叶った。2020年12月12日〜25日まで『吉開菜央特集:Dancing Films』と題し、吉開菜央の初期作品から最新作まで2プログラムに分けてユーロスペースで上映中。
いやー、凄かった。凄まじい衝撃だった。それは初めてAKIRAを観賞した時と同じような感覚であった。2020年に観賞した映画の中で最も好きな作品だ。もしわたしがこの作品を観ずして自身のことを「映画好き」だと公言し平然と生きていたらとしてら、甚だ大バカ者だっただろう。この作品に出会わせてくれたユーロスペース、本当に本当にありがとう。
生きていると時々、細胞が喜ぶ瞬間に出会うことがある。わたしの場合のそれは、音楽から得ることがほとんどだ。身体の隅々までその作品が浸透していく。そして頭頂部から足の爪先まで感じる。踊る。喜ぶ。久しぶりの感覚に目を輝かせ、不可抗力で口角は持ち上がり、鼻息が荒くなる。ただただ気持ちの悪い生き物となるわたし。こういうものに触れた時、わたしは理性を失う。その気持ち悪いわたしが恐ろしく気持ちいい。
たくさんの人にこの作品を観て欲しいな。もしかするとヒトだけでなくヒトと同じように命を持つ生命体ならば、地球上だけでなく地球外であっても通じるものがあるかもしれないと思ったりもする。
輪廻転生。生命の儚さと惨さ、そして尊さを見た。
何度も何度も観たい。今日も明日も明後日も。もっと深く感じたい。強く強くBlu-ray化を願います。
あらすじ
言葉の代わりに花を吐く女。罵詈雑言が飛び交う現代に超巨大な花束を送る、情動と暴力の衝突を描いたヒューマンホラー。
▶︎観賞ポイント
point 1|聴覚と視覚

その迫力と繊細さに何より驚かされる。それはあらゆる命の声。時には誰かが耳元で囁くように、時には自身の内臓の奥から広がるように、耳と目から猛スピードで身体の隅々にまで浸透していく。もしかすると呑み込まれるという方が正しいのかもしれない。ただその勢いに身を委ねるだけだった。そして一瞬たりとも目を離すことができない。
point 2|余白だらけのわたしのストーリー
ただのアートフィルムなんてものではない。15分という短い時間の中に、一人の女の人生が刻まれている。不思議と観賞後にはわたしの目には涙が滲んだ。
真っ白な空間で起きる出来事は、現代を今まさに生きているわたしにもあなたにもあの子にも当てはめることができる。大袈裟かもしれないが、命の尊さを感じ、そして生きる勇気が与えられた気がする。
▼作品データ
『Grand Bouquet』(日本)
公開:2019年
監督・脚本・編集:Nao Yoshigai
プロデューサー:Shinya Fujiwara、Go Komaki
撮影:Koh Terai
美術:Koyuki Kato
出演:Hanna Chan
▼観賞データ
