FILM REVIEW

『こどもかいぎ』(2022)-Tomo Goda

『こどもかいぎ』

 『うまれる』シリーズで知られる豪田トモ監督の最新作『こどもかいぎ』が7月22日から公開されている。テーマは「対話」。コミュニケーションをとることが苦手だったという、豪田監督。娘さんとの対話もうまくできない“ダメパパ”であった自分が、本作の製作のきっかけのひとつにもなったそう。

 「おとなのみなさん、ちゃんと話し合っていますか?」

 試写のハガキに書かれたこのコピーが、自分への問いのように感じた。それはふたりの子を持つ母である大人のわたしへの問いかけであり、あることがきっかけで小学生のうちに自分の心に鍵をかけてしまいそのまま大人になってしまったわたしへの問いかけであった。

 保育園という、「小さなかわいい子ども」が集う愛くるしい(と勝手に想像してしまいがちな)その場所で、実はとてつもない人間模様が繰り広げられていた。

 本作は、未婚・既婚、子持ち・子なし、性別や年齢にさえ関係なく、この地球上に存在する「ニンゲン」をやっているモノなら誰にだって刺さるだろう。だって、「ニンゲン」はみんな生まれたその瞬間は同じなんだから。そこから1秒、1分、1時間、1日、1年……とそれぞれの時間を重ね、生きていく。そうした中で大切とされるのが本作のテーマである「対話」だという。今回はこの『こどもかいぎ』のレビューを紹介したい。

あらすじ

 社会生活の第一歩を踏み出す場所、保育園でさまざまなテーマについて話し合う「こどもかいぎ」が行われた。子どもたちは輪になって、日々の疑問や気になることについて自由に自分の考えを話し、みんなの考えに耳を傾ける。そこには正解はなく、シンプルに「対話」という行為そのものが大切にされている。時にはケンカをしながら、他者への配慮や優しさも学んでいく。「伝える・受け止める・考える」ことの重要性を問うドキュメンタリー映画。

作品評論

「得る」ことができるドキュメンタリー作品

 ドキュメンタリー作品というと堅苦しいイメージを持つ人も多いかもしれない。誰かの生き方がダイレクトに鑑賞者の中に入ってくるのだから、どうしても重みを伴ってしまう。映画館という閉鎖された空間で、しかも海外のものよりもっと身近な日本のドキュメンタリー作品を鑑賞すると、間違いなくその重みは増す。そのようなこともあって、ドキュメンタリー作品を「学校帰りに友達と」「週末のデートで」、なんていう気軽なノリではなかなか鑑賞しづらいというのが実際のところだ。しかし忘れてはいけないのが、それこそがドキュメンタリー作品の魅力であるということ。その重みを伝えるために丹精込めて込めて製作されているのだから、そういうものなのだ。

 だがこの『こどもかいぎ』は、わたしの邦画ドキュメンタリー作品への壁を一気に取り払うものとなった。とにかく最初から最後まで自ずと作品に没頭できた。そして笑いあり涙ありと、心の底から楽しむことができた。そして何より、深く考えさせられ、自分自身、得るものが大きかった。

 まず最初から最後まで自ずと没頭できた点について、「映像」というのは大きなポイントになっていただろう。明るく、ボケも活かされており、全体を通して柔らかく優しい映像に仕上げられていた。それにしっかりとマッチする糸井重里のナレーションは、まだまだ小さな未来ある芽を、温かく微笑みながら見守り、大切に包むような心地にさせた。また個人的には、時折カットインされる風景などの間が、絶妙に観る側のテンポに落ち着きを持たせてくれて好きだった。

 そして笑いあり涙ありという点では、これはもう映画の組み立ての素晴らしさとしか言いようがなく、これがあるからこそ本作を映画館で観るべきドキュメンタリー作品と言えるのだろう。保育園の年長クラス「すいすい」組を中心に撮影されているため、園の最高クラスへの進級から卒園という巣立ちまで、ドラマティックが止まらない1年間が切り取られている。特に子を持つ親世代は感情移入せずにはいられない。

 我が子がこの世に誕生して、赤ちゃんとして手取り足取り必死にお世話をして、社会生活の第一歩として保育園や幼稚園に入園させる。その初日は「いやだー!ママいかないで!!」と大泣きされ、胸を締め付けられる。しかしいつの間にか我が子は園に馴染み、初めての運動会やお遊戯会、お誕生日会で成長を目の当たりにする。そんな日々が積み重なり、次はいよいよ小学生というステップに進む──。これ、本当に親にとっては感動ポイント。愛らしい子どもに笑い、その成長に涙。

 つまりこれは、誰もがその主役となる、台本のない究極のドラマ。わたしもあなたもあの人も、そんな純粋無垢な時代があったのね。そして小さなあの子やその子にも、これからその時代がやってくる。だから「ニンゲン」誰にでも刺さるのだろう。しかもここに出てくる子どもたちのキャラクターが豊かで、自分だったらこの子に近いかな?と想像させていくれる。あるいは例えそうでなくても「あー、こういう子いたよね」と自分の身近な人々と繋げることができる。気が付けば、映画・ドラマの幼少期題材最強説。小さな頃の個性って、真っ直ぐで、嘘のない「ニンゲン」そのもので、誰もがその道を辿ってきたことによってその記憶がどこかに存在しているため、共感性が高いのかもしれない。

 話を戻して、深く考えさせられ、自分自身、得るものが大きかったということ。実はこの作品を鑑賞してから約2ヶ月の間に、わたしは結構大胆な行動に出た。ざっくりというと何十年言えなかったことをある人物に伝えたということだった。わたしはそのことを墓場まで持っていくつもりだった。けれどなぜだか急にポロッと言葉がこぼれ落ちちゃった。だからって大きな変化があったわけではないのだが、ほんの少し心が軽くなった気がした。その後この作品のことを思い出して、「あ、こういうことか」と思った。たとえ大したディスカッションができなくても、自分の思いを言葉で伝える、吐き出すということは、自分自身も含めた誰かや何かを動かす力を持った、意味ある行為。自分の中にあるうちはその可能性はゼロであっても、外に出すことで少なくともゼロ以上にはなる。それに自然と気づかせてくれたのはこの作品に出会ったからではないかと思っている。

 だとするとこの邦画ドキュメンタリー作品『こどもかいぎ』は、学校帰りにだろうが、デートでだろうが、ひとりで暇つぶしにだろうが、見る価値がある作品であると自信を持っておすすめできる。だって自身の人生をほんの数ミリでも動かすパワーを持っているのだから。例えそのときすぐに何かが変わらなくても、長い時間をかけてきっと「そういえば……」なんてことが、あるいは自覚なしに影響してくれるだろう。人生の88分、この作品に使ってみるのはいかがだろうか?

子どもの瞳にうつる世界

 ここからは少し内容に触れていく。

 舞台となった保育園は、多くの子どもたちが社会とはじめて出会う場所。自分本位ではいられないその場所で、子どもたちはわたしたち大人が思っているよりもはるかに深く考え、多くのことを感じて生きている。まっすぐな心を写したその瞳には、今のこの世界は一体どんなふうに見えているのか?

 作品のはじまりからおわりまで、「なるほど」と思わされる子どもたちの言葉がいくつも登場する。核心をつく言葉、鋭い言葉、美しい言葉、優しい言葉……。子どもたちは自分の思っていることや考えを伝えるためにさまざまな言葉を探しては並べる。これが大人とどう違うかって、自分の心に正直であるということ。

 人と人が交わりぶつかり対話をし、またぶつかり……を繰り返すうちに相手への配慮や優しさを学ぶ。これは社会生活においてとてつもなく重要なことである。しかしその一方で、この摩擦を怖がり、あるいはいざこざが面倒になり、自分の正直な心を閉じ込めて、「配慮」「優しさ」という別の仮面を作り出してしまう。これについては、自身の経験上、良くも悪くもというところだろうか。ただ一つ言えることは、よっぽどできたニンゲンでなければ、自分を抑えてまで被った「配慮」「優しさ」の仮面は、やがて自分自身を苦しめることになりうるということ。つまり自分に嘘はつくなということだ。

 自分の中で疑問や疑いがあるのに賛同してはいけない。優しいふりは優しさではない。子どもたちには無縁のこれらのことが、成長とともに無意識にわたしたちの生きる邪魔をする。

 「ひまわりがさくかもしれないから、あめがすき」

 「ことばでいえばいいのに、なんでてっぽうとかでたたかうの」

このふたつの言葉がもっとも印象的だった。そして、わたしが見ている世界がいかにちっぽけなものかと思い知らされた。

今はじめれば、20年後の日本が変わる

 試写会では作品鑑賞後に監督を囲んでのティーチインが行われた。そこで豪田監督がお話しされたのは「人前で話すのが苦手なのは、民族性ではなく場数」ということ。カナダの「サークルタイム」やスウェーデンの「ライフスキル」を例に挙げ、日本の教育現場でもその必要性を示された。確かに小さい頃からその習慣が身についていたとしたら、わたちはもっと人に話し、そして他人の意見を受け入れることができるようになるかもしれない。そしてそれはいつしか当たり前のことになり、家庭でも学校でも職場でも「対話」する機会が増えることによって、「虐待」「いじめ」「貧困」「自殺」から子どものみならず大人も救ってくれる可能性は大いにある。

 「今はじめれば、20年後の日本が変わる」

豪田監督は確信を持っていた。ロシアによるウクライナへの侵攻、以前の当たり前の日常を奪った新型コロナウイルス、そして先日の安倍元首相の銃撃事件、そこから浮き彫りになった宗教問題や政治問題……。いつ何が起きてもおかしくない不安なこの世界で、声を上げずにひっそりと生きていくことが正解なのだろうか?今こそ大人たちが、子どもたちの未来のために動き出すときなのかもしれない。

 教育現場に浸透させることに並行して、まずは身近なことからはじめてみるのもいいだろう。それはとっても簡単なこと。大人も子どももみんなみんな、自分のこと話してみよう。そして相手のこと聞いてみよう。

作品情報

映画『こどもかいぎ』オフィシャルサイト

ドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』
7月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開中


監督:豪田トモ
ナレーション:糸井重里
プロデューサー:牛山朋子
コピーライト:岩下創
音楽:「ビューティフル・ネーム」ゴダイゴ/作詞:奈良橋陽子・伊藤アキラ/作曲:タケカワユキヒデ
推薦:厚生労働省
後援:内閣府/日本保育協会/公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
配給:AMG エンタテイメント
2022年/ドキュメンタリー/88分/カラー/ビスタ/ステレオ
公式サイト:https://www.umareru.jp/kodomokaigi/