▶︎何でもいいから、とにかく一度がんばってみようと思える映画
こういったタイプの映画はなかなか苦手で、「よし、観よう!」と思った時を逃さないようにしている。けれど大抵の場合は「いい映画だったなー」と鑑賞後はいい気分になれる。映画も食べ物と同じで、心や身体に不足しているものを自然と欲するのだろうか。
原作は講談社『モーニング』に掲載されたHideki Arai(新井英樹)のデビュー作で、1992年度第38回小学館漫画賞青年一般部門を受賞した。2018年のドラマ化に続く映画化となる。
Sosuke Ikematsu(池松壮亮)演じる主人公の宮本と、Yu Aoi(蒼井優)演じるヒロイン中野靖子が出演する原作後半部分が舞台となっている。
この作品はとにかくむさ苦しいほどクソ熱くて、目を覆いたくなるほどリアルに残酷。幸せと不幸せ、光と影が派手にぶつかり合っている。だからこそ血のかよったメッセージが観るもののむねの奥にダイレクトに落ちてくる。
まっすぐで、ダサくて、もしかすると今どきじゃないかもしれないけれど、観るものの心を熱くさせるものが確かに宿っている。だから熱く戦う人はもちろん、落ち込んでいる人も、空虚な人も、ただ何となく日々を過ごしている人もにもおすすめ。大それた事でなくてもいい、ただほんの一瞬でもいい。なんでもいいからとにかく一度、あるいはもう一度がんばってみようかな?と思わせてくれるだろう。
▶︎あらすじ
文具メーカー「マルキタ」で働く若手サラリーマンの宮本浩は、会社の先輩である神保の友人の中野靖子と出会い恋をする……。
▶︎鑑賞ポイント
point 1|弾けるような幸せの時
この作品は喜怒哀楽がものすごく激しく描かれている。中でもふたりの幸せの時間は照れてしまうほどキラキラと眩しくて、本当に温かい。何というのか、美談とか夢の話とか作り物とかでは全くなくて、わたしたちが体感することのできる温度の幸せを同じ目線で見せてくれるのだ。
point 2|役者の全力で完璧すぎる演技
Sosuke Ikematsu(池松壮亮)、Yu Aoi(蒼井優)、Arata Iura(井浦新)、Kenichi Matsuyama(松山ケンイチ)など出演者の名前を見ても錚々たる実力派ばかり。いや本当に、凄い。毛穴のひとつひとつまでが役になり切っていて、まるでドキュメンタリーを観ているようであった。とりわけわたしの一番好きな役者である蒼井優さんの演技は凄まじかった。つい先日『リリイ・シュシュのすべて』(2001)を久しぶりに観たところだった。あの頃からやはり普通の役者とは明らかに違っている。ナチュラルどころか、憑依という言葉がぴったりくる。今後も、いつまでも、彼女を通して多くの作品に触れたいと思う。
point 3|自立した女性 中野靖子
主人公である宮本の熱血ぶりはもはやポイントとして特記するまでもなく、わたしが観賞ポイントとしてあげたいのは中野靖子の生き様だ。この人は最初から最後まで何らブレがなく、ものすごくかっこいい。そのキャラクターを演じたのが蒼井優だからもう大好き。人間として芯が通っていて、自分をしっかり見つめていて、強くて、脆くて、優しくて、少し父親に気を遣っているところもいい。こういう生き方が自分を愛する生き方なんだろうなと思った。まさに人生を「生き抜く」姿なのだ。
point 4|エンディング
この作品、エンディングまでもが見所。映画の中でエンディングが一番好き!という方も中にはいるのではないだろうか?エレファントカシマシのボーカルHiroji Miyamoto(宮本浩次)の渋い声で歌われる『Do you remember?』が、このストーリーのフィナーレを盛大に彩ってくれている。ぜひ最後までお見逃しなく。
▼作品データ
『宮本から君へ』(日本)
原作:『宮本から君へ/Hideki Arai(新井英樹)』
公開:2019年
監督:Tetsuya Mariko(真利子哲也)
脚本:Tetsuya Mariko(真利子哲也)/Takehiko Minato(港岳彦)
撮影:Hidetoshi Shinomiya(四宮秀俊)
主題歌:『Do you remember?』Hiroji Miyamoto(宮本浩次)