▶︎アヴァンギャルドな雰囲気漂う大人の御伽噺
1973年から1974年にかけて「ビッグコミック」で連載されたOsamu Tezuka(手塚治虫)の大人向け漫画を原作とし、Macoto Tezka(手塚眞)によって実写映画化された作品。撮影監督がWong Kar-wai(ウォン・カーワイ)とのタッグで知られているChristopher Doyle(クリストファー・ドイル)といことで、最新の彼の作品に興味があり原作未読で鑑賞。
昭和のアヴァンギャルドな雰囲気漂う大人の御伽噺。作品に纏わりついているさまざまな装飾をはぎ取ると、純愛ラブストーリーであると言える。しかしストーリーに共感したり感動することを楽しむというよりは、この非日常的な世界観浸るという感覚での観賞がしっくりくる。いつもの自分から少し離れて、手招きされるがままばるぼらの世界へ引きずり込まれるといい。「幻」、この作品自体がそのようなものであるのは、もしかすると制作者の狙いなのかもしれない。
はっきりと言えるのは令和感覚の人には向いていいない。しかし言い換えれば、30歳以上の、ギラついたちょっぴりキザな時代を知っている人であればバッチリはまる方もいるはずだ。なんと言っても手塚治虫×手塚眞×クリストファー・ドイルなのだから。
▶︎あらすじ
人気小説家として名声も地位も手にした美倉洋介が、ある日新宿の片隅でホームレスのように酔っぱらった少女ばるぼらと出会う……
▶︎観賞ポイント
point 1|ばるぼら演じるFumi Nikaido(二階堂ふみ)の熱演
この作品の最大の魅力は、Fumi Nikaido(二階堂ふみ)演じるばるぼら。主人公・美倉洋介のミューズである。身体をはった演技は素晴らしかった。セリフがリアルな話言葉でないためどうしても違和感がでてしまいそうなものだが、不思議とすんなりと受け入れることができたのはさすがと言える。
裸体も美しいが、特にわたしは彼女の白目の美しさに吸い込まれそうになった。
point 2|Christopher Doyle(クリストファー・ドイル)が手掛けた映像
わたしの観賞理由であったChristopher Doyle(クリストファー・ドイル)。Wong Kar-wai(ウォン・カーワイ)の『恋する惑星』や『天使の涙』ファンは気になるところだろう。結論から言うと、良かった。ただし“あの頃”のような衝撃はなかった。しかしそれは撮影技術の発展のせいだろう。
コントラスト強めの黒を効かせたスタイリッシュな映像、ピンクや紫の夜の光、ドイルらしいさは感じた。ただ欲を言えば、もっと美術で汚らしさやグロさが作り込まれた上での、高画質生々しいドイルらしさを観たかった。新宿が清潔すぎたせいか、Goro Inagaki(稲垣吾郎)と二階堂ふみが美しすぎたせいか、映画の「ニオイ」までは感じることができなかった。
point 3|音楽
Ichiko Hashimoto(橋本一子)が手掛けた音楽、わたしはとても好きであった。音から想像する世界が映像になったと逆の発想さえできそうなサウンド。目を閉じて耳から感じ、脳内で想像の世界を創りあげる、もしもう一度観るならば試してみたいほど。
わりと激しい性描写もこのサウンドのおかげでただのエロではなく、美しく爽やかに観賞することができた。
▼作品データ
『ばるぼら』(日本)
公開:2020年
原作:『ばるぼら』Osamu Tezuka
監督・編集:Macoto Tezka
脚本:Hisako Kurosawa
撮影:Christopher Doyle
美術:Toshihiro Isomi
音楽:Ichiko Hashimoto