10代におすすめの映画を紹介
映画はわたしにさまざまなことを教えてくれました。なかでもわたしの人生に影響を与えた、大切なことを教えてくれた作品を紹介します。学校では教えてくれないこと、親にも教わらなかったこと、自分の小さな世界では経験できないことなど、大人になるまでに観ておきたい映画をピックアップします。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
酩酊状態・泥酔状態であっても、同意のない性行為はレイプ!
ある事件をきっかけに医大を中退した30歳目前のキャシー。昼間はカフェの店員として平凡に過ごし、夜はバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアンがカフェを訪れる。この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる──。
エメラルド・フェネル(Emerald Fennell)監督の長編デビュー作。第93回アカデミー賞において脚本賞を受賞している。製作に名乗りをあげたマーゴット・ロビー(Margot Robbie)、主演のキャリー・マリガン(Carey Mulligan)を筆頭に、魅力あふれるさまざまな女性が集結したパワフルな作品となっている。「Promising Young Woman=前途有望な若い女性」の未来が奪われてよいはずがない!本当はあってはならないことなのに、当たり前のように溢れているリアルな性差別。恋愛だから恋人だから仕方ないと思っていることも、本当は犯罪かも?性行為や飲酒について考えるきっかけとなる復讐エンターテインメントは必見。
詳しくは「『プロミシング・ヤング・ウーマン』Promising Young Woman(2020)-Emerald Fennell」をチェック
『17歳の瞳に映る世界』
全人類が考えなくてはならない“17歳の瞳に映る世界”
オータムはペンシルベニア州に住む17歳の高校生。友達は少なく、唯一の親友は同じスーパーで働くいとこのスカイラーだけだった。ある日、オータムは予期せぬ自身の妊娠を知る。しかしペンシルベニ州では未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。そんな時、オータムの異変に気づいたのがスカイラーだった。ふたりは事態を解決するためニューヨークへ向かうが──。
第70回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したEliza Hittman監督のロードムービー。瑞々しくリアルな映像はドキュメンタリーを思わせ、「17歳の瞳に映る世界」を体感できる。「女」という身体を纏い生まれ堕ちたわたしたちが、日々どのような視線を受け、言葉を浴びせられ、生理という体のサイクルと付き合っているのか。それがたとえ宿命であったとしても、ひとりで抱え込む必要はない。誰かと共感し助け合うことでいくらか気が楽になる。もちろん相手は女でも男でもどちらでもいい。この作品を観ることで、わたしたちが暮らす世界がどのようなものであるのかを客観視することができる。
詳しくは「『17歳の瞳に映る世界』Never Rarely Sometimes Always(2020)-Eliza Hittman」をチェック
『セッション』
狂気と狂気のぶつかり合い!映画史に残るラスト9分を見逃すな
アンドリュー・ニーマンは偉大なジャズドラマーに憧れる19歳の大学生。名門シェイファー音楽院に入学し、日々練習に励んでいた。ある日ニーマンはひとり教室で練習をしていると、伝説の指導者といわれるテレンス・フレッチャーが現れた──。
デイミアン・チャゼルが監督・脚本を務め、第87回アカデミー賞において助演男優賞(J・K・シモンズ)、編集賞、録音賞を受賞。主演をマイルズ・テラー、鬼教師をJ・K・シモンズが演じた。テンポの良いスピード感で展開され、心拍数が上がる激アツドラマ。ニーマンとフレッチャーのぶつかり合う狂気の先に、愛はあるのか?何かに夢中になる青春時代に、ぜひ観てほしい一作だ。
『WAVES/ウェイブス』
美しい映像と音楽に彩られた繊細でおしゃれな青春映画
タイラーはレスリング部にスター選手として所属する高校生。成績も優秀で学校でも人気者。さらに美しい恋人アレクシス、裕福な家庭と、恵まれた環境で育ち、順風満帆な人生を送っていた。ところがある日、SLAP損傷(肩関節のスポーツ障害)と診断を受けレスリング生命を絶たれることに──。
A24によるトレイ・エドワード・シェルツ監督の青春映画。順風満帆な家庭の崩壊から再生を描き、繊細に紡がれた10代の少年少女の悩みや葛藤に胸が締め付けられる。劇中で流れるさまざまなアーティストの楽曲が美しい映像とマッチして、エモーショナルでおしゃれな一作へと仕上げられている。テイラー・ラッセルの見事な演技に心揺さぶられるだろう。
『ビューティフル・ボーイ』
実話をもとに描かれたドラッグ依存症から更生まで
デヴィッド・シェフはカウンセラーの元を訪れていた。そこで「息子はあらゆるドラッグをやり、クリスタル・メス依存になった。助ける方法はあるのか」と問う──。
デヴィッド・シェフのノンフィクション「Beautiful Boy: A Father’s Journey Through His Son’s Addiction」をもとにフェリックス・ヴァン・フルーニンゲンが監督を務め、スティーヴ・カレルが薬物依存の息子の父デヴィッド・シェフを、ティモシー・シャラメが薬物依存の息子・ニック・シェフを演じた。実話をもとに描かれているだけありショッキングなシーンも多数あるが、ドラッグがいかに人を滅ぼし、家族にまで大きな影響を与えることが丁寧に描かれている。エンドロールではアメリカの作家・詩人であるチャールズ・ブコウスキーの「Let It Enfold You」の詩をシャラメが5分15秒にわたり朗読。ブコウスキーはニック(本人)が好きな作家のひとりであり、劇中のシーンにも彼の作品が登場している。
『リトル・ガール』
幼少期の「性別の揺らぎ」を捉えたドキュメンタリー作品
サシャは2歳を過ぎたころから男の子の体を割り当てられながら、自分は女の子であると訴えるようになる。しかし学校へはスカートをはいて通うこともできず、バレエ教室では男の子の衣装を着せられ、7歳になっても女の子と認めてもらえずにいた──。
2020年ベルリン国際映画祭で上映されたセバスチャン・リフシッツ監督によるドキュメンタリー映画。「女の子」でありたいと願う少女とその家族。ごく当たり前の願いであるにも関わらず、世間はなかなかそれを受け入れない。少女と家族の譲れない戦いが描かれている。少女の瞳からこぼれ落ちる大粒の涙を、わたしは決して忘れない。サシャと同じくらいの年齢の子どもにも観てほしい大切な作品。
『リトル・ガール』Petite fille(2020)-Sébastien Lifshitz
『あつい胸さわぎ』
「女性の心と体」のことがわかる良作
港町の古い一軒家で母とふたり暮らしをしている武藤千夏は、慎ましくも笑いの絶えない日々を過ごしていた。小説家を目指し念願の芸大へ合格したが、大学から出された創作課題「初恋の思い出」に頭を悩ませていた──。
演劇ユニットiakuを主催する横山拓也による、舞台「あつい胸さわぎ」が原作。まつむらしんごが監督を務め、『凶悪』の脚本で知られる髙橋泉が脚本を担当。「若年性乳がん」をテーマに、女性の体のことや心のことが丁寧に描かれており、女性はもちろん男性も知っておくべき内容に。病気を扱いながらも美しい形式とユーモアが交えられたことにより、爽やかな良作として仕上げられている。吉田美月喜、常盤貴子、奥平大兼、佐藤緋美、前田敦子のナチュラルな演技によって作品との距離が近くなり、心の奥にスッと浸透してくれる。
詳しくは「『あつい胸さわぎ』(2023)-Shingo Matsumura」をチェック